アニメ LAST EXILE 感想

2003年の春クール。2011年秋に続編『ラストエグザイル-銀翼のファム-』放送。GONZOの10周年記念作品。喜多村英梨と花澤香菜の声優デビュー作。文芸設定の鈴木貴昭は脚本にも参加している。

20年前の作品である。ぼくが見たのは続編銀翼のファムの時(2011年)なのでその時点で8年前の作品だった。アニメにはまりだした時期なのでインパクトが大きかったのだと思う。強く印象に残っている作品。

SFだがメカのデザインにはスチームパンクっぽさもある。空を飛ぶ作品であり、もこもこの雲に戦艦やら小型船やら砲弾やらがつっこんでいくときの演出が印象的。「雲にぶつかっていく」という形容がしっくりくるような演出で、実際の雲にぶつかってそうなるかは疑問だがなんか爽快感があって大変よい。

LAST EXILEことラスエグの何が好きかというと、没入感が得られるところだと思う。現実世界の匂いが無いし、世界観説明のナレーションも入らない。登場人物の経験だけで世界観が説明されていく。自分が神の視点に立たなくて済む。

「世界観説明のナレーション」が無いことを強調するのは、ラスエグは本来はナレーションが必要なタイプの物語のように思われるからだ。ラスエグ世界の情勢は銀河英雄伝説のそれに似ているが、銀河英雄伝説には毎話ナレーションが入る。国と国の争いのようなものを描こうと思うと、神の視点からの説明が無ければ読書・視聴者が戸惑うものだ。しかしラスエグにはそれが無い。実際ラスエグの世界観の把握という点では随分と戸惑う。

主人公のクラウスとラヴィが「ヴァンシップでグランドストリームを超えるのが夢」って言っているのでそれがクライマックスなんだろうと予想できるものの、グランドストリームが何なのか分からない。最初に拾った幼女、アルヴィス・ハミルトンが何なのか最後まで分からないまま(主人公たちにも分かっていないまま)普通に仲間になっている。地上からデュシスに移動できないのなんで? ギルドの権威の裏付けはなんなの? 戦艦シルバーナと戦艦ウルバヌスだけはなんでギルドのコントロールから離れているの? エグザイルって何よ?

20話くらいまでラストエグザイルなんもわからん。

普通は飽きると思う。壮大な物語にはある程度の道しるべが必要だ。その道しるべとして下山吉光のナレーションが入ったり、説明くさい長台詞をしゃべるキャラがいたり、やたら独り言をいうキャラクターが出てくるものなのだ。便利ではあるが、しかしそういうあからさまな道しるべを見ると神の視点に立ってしまい、視聴者は我に返ってしまう。

しかしラスエグにはそういうのが無い。

クラウスとラヴィがどこに向かうのか。彼らが責任感から強引に乗り込み居座ることになった戦艦シルバーナの目的がなんなのか。そういったことが分からないまま10話も20話も見続けていられる理由はラストエグザエルという作りこまれた空想世界の雰囲気とキャラクター達が魅力的だからだろう。ラスエグ世界の大局的な動向を気にしなくても夢中になっていられるのは戦艦シルバーナの中という小さな世界を見ているだけで楽しいからだろう。

いつもツンツンしているパイロット、タチアナの心が解けていく様は魅力的だが、物語のあらすじには関係ない。生真面目な銃兵モランの失恋も魅力的だがあらすじには関係ない。なによりも魅力的なのはトリックスター的なポジションのディーオだ。ディーオが味方なのか敵なのか気になる。心を掴まれる。でもあらすじには関係ない。そんなこんなで10話も20話も見ているとアナトレーとデュシスという国、そして第三勢力としてのギルドという壮大な物語を楽しむだけのキーワードが全て揃っている。

視聴者は没入感を保ったまま、まるで自分が世界の謎を解いていっているような快感を得られる。

このクライマックスに繋がる緩急が見事だ。戦艦シルヴァーナの中には人間関係の確執があり、恋愛模様があり、嫉妬があり、誤解がある。そういった群像劇が解決に向かい始めたころ、風雲急を告げるように副艦長が船を降りる。物語が動き出す。ネタバレはしない。

日常を離れ、どこまでも青い空に吸い込まれるように没入できる。そんな作品。

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